子宮蓄膿症は、中高齢、未避妊の子に多く認められ、子宮腔内に膿液が貯留する疾患です。膿液中の多くが大腸菌であるため、肛門や外陰部周辺および膣内の細菌が子宮内へ感染すると考えられています。また発情兆候が認められてから、1-2ヶ月後のプロジェステロン分泌増加時期に発症する事が多いと言われています。
症状は、元気食欲低下、多飲多尿、嘔吐や下痢が認められ、時には重篤な状態で来院される事もあります。膣から排膿が認められる場合(開放性)と認められない場合(閉鎖性)があり、閉鎖性の方が開放性に比べ中毒症状が重い傾向にあると言われています。開放性の場合、陰部から膿性分泌液が認められる事もあります。
診断は、稟告や症状から判断し、血液検査にて白血球数およびCRP(炎症マーカー)の上昇、また超音波検査にて、液体が拡張した子宮を確認する事で診断します。
子宮蓄膿症は、日常の臨床現場で多く経験しますが、重篤な状態で来院されることが多く、救命を考えると外科的に卵巣・子宮全摘出を行うことが一般的な治療法で、最も推奨されます。しかし、今後繁殖に用いたい場合、高齢、麻酔や手術のリスクが高い場合、オーナー様が手術を希望されない場合には、内科治療を実施することもあります。
内科治療
内科治療は、治癒率が100%では無いこと、治癒までに時間がかかること、一過性ではありますが薬の副作用があること、治癒した動物は、発情回帰後の黄体期に再発する可能性が高いことをご理解頂いた上で実施しています。
内科治療は、PG製剤と副作用が少ないアグレプリストン(Alizine)による治療があります。当院では、アグレプリストン(Alizine)単独またはアグレプリストン(Alizine)および低用量PG製剤の併用を行っております。この併用法は、2006年フランスから出された文献を参考に行なっております。これによると、子宮蓄膿症の治療開始90日後の寛解(治癒)率が60%に対し、併用法は、84.4%であったと報告されています。副作用に対してPG製剤を低用量として用いられております。
外科治療
卵巣、子宮全摘出を実施します。当院では麻酔時間を短くするため、ソノサージやサンダービートといった超音波メスを用いて、結紮をせずに機械で卵巣子宮を摘出します。
2週間前から元気や食欲低下、陰部より白濁した液が出ているとのことで来院されました。
血液検査では、白血球数51900/μl、CRP14.0mg/dlといづれも高値で炎症が生じていることが示唆されました。また、超音波検査にて子宮内に混合エコーの液体貯留が認められました(写真3、4)。
高齢であり、手術を希望されなかったため、アグレプリストン(Alizine)とPG製剤(クロプロステノール)併用による内科治療を実施しました。
53病日で、白血球数10000/μl、CRP0.3 mg/dl、超音波検査にて前回子宮内に貯留していた液体が消失していました(写真5、6)。このことより、53日目に治癒したと判断しました。その後、再発も認められず、良好な経過を過ごしております。
子宮縱断像(写真3)と子宮横断像(写真4)。子宮内に混合エコーの液体貯留が認められる。
子宮縱断像(写真5)と子宮横断像(写真6)。前回子宮内に貯留していた液体が消失している。
2週間前より陰部より出血が続いており、2日前より元気や食欲低下しているとのことで来院されました。
血液検査では、白血球数4100/μlと低値、CRP>21.0mg/dlと急性炎症が生じていることが示唆されました。また、超音波検査にて子宮内に高エコー性の液体貯留が認められました(写真7)。
点滴や抗生剤投与し、状態が安定していることを確認後、卵巣子宮全摘出を実施しました(写真8)。術後12病日にて、白血球数11400/μl、CRP0.3 mg/dlと正常値となり、治癒しました。
1週間前から食欲低下、元気消失、間欠的嘔吐が認められるとの事で来院されました。
血液検査では、白血球数68200/μlと高値、CRP>18.8mg/dlと急性炎症が生じていることが示唆されました。また、超音波検査にて子宮内に高エコー性の液体貯留が認められました(写真9)。
点滴や抗生剤投与し、状態が安定していることを確認後、卵巣子宮全摘出を実施しました(写真10、11、12)。術後第7病日にて、元気食欲は改善し退院となりました。
「元気や食欲がない。」
「多飲多尿が認められる。」
「陰部より、膿様の分泌液が出ている。」
などでお困りの際は、が認められましたら、当院に気兼ねなくご相談下さい。