股関節脱臼とは、大腿骨(太ももの骨)が寛骨(骨盤の骨)から外れてしまう状態をいいます。外れる方向により、頭背側脱臼(発生率75%)と尾腹側脱臼(発生率25%)に分類されます。
多くは外傷で生じますが、もともと股関節形成不全を発症していて股関節が緩く、ちょっとした外力で股関節が外れてしまうケースもあります。
治療は、内科療法と外科療法に分かれます。
1 内科療法(非観血的整復)
麻酔下にて骨を元の位置に戻し、その後頭背側脱臼の場合はエーマースリング、尾腹側脱臼の場合は足かせによる包帯固定を実施します。
外傷性による頭背側脱臼のうち、50%は内科療法を行なっても再脱臼をしてしまうという報告があります。内科療法で再脱臼してしまう場合や股関節形成不全を生じている症例は、外科療法を検討します。
外傷性股関節脱臼で来院されました。股間節が頭背側に脱臼(矢印)しています。
整復2ヶ月後のレントゲン写真です。整復後、エーマスリングによる包帯固定を10日間実施し、その後安静に過ごしたところ再脱臼もなく(矢頭)完治しました。
2 外科治療
トグル・ピン法またはスローカム・スリング法
股関節構造を維持し、医療用の糸で内固定する方法です。
股関節形成不全を生じている場合、股関節がもともと外れやすくなっているため、いくら手術で固定しても再脱臼するリスクが高くなります。その場合、大腿骨骨頭切除術を実施します。大腿骨骨頭切除術は、股関節の構造は無くなりますが、肉芽組織が骨の間を満たし、骨同士を安定化させる手術となります。
再脱臼のリスクは無く、安静にする必要も無くなります。術後早期にリハビリ開始を実施できます。大型犬の場合は、股関節総置換術を検討する場合もあります。
外傷歴は無く、散歩後急に左後肢のびっこが認められるとの事で来院されました。患側および反対側の寛骨臼が浅く、また関節のはまり具合も悪く、股関節形成不全が認められます(矢頭)。左股関節が頭背側に脱臼(矢印)しています。
術後のレントゲンです。安静にする必要はなく、術後早期にリハビリを開始し、しっかり負重をして運動することが出来るようになりました。「外傷後、後肢の跛行や挙上が認められる」、「股関節形成不全と診断を受けた」、「股関節脱臼と診断を受けた」などお困りの際は、当院に気兼ねなくご相談下さい。