膝関節内には、十字に交差した2本の靱帯(前十字靭帯・後十字靭帯)があります。この靱帯は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(スネの骨)の位置を安定化しています。
この靱帯のうち前十字靭帯が断裂すると、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(スネの骨)の位置における安定性が低下し、負重時に脛骨が大腿骨に対して前方へ変位してしまいます。この病態を前十字靭帯断裂といいます。
大腿骨(太ももの骨)と脛骨(スネの骨)の位置における安定性が低下し、脛骨が大腿骨より前方へ変位しています(矢印)。
人では、スポーツ選手において、外傷や負荷により断裂することがほとんどですが、犬では加齢により靱帯が脆くなり、断裂してしまうことが多いと言われています。好発犬種として、ヨークシャテリア、柴犬、ウエルシュコーギー、ロットワイラー、バーニーズ・マウンテンドック、ニューファンドランドなどが挙げられます。
治療は、保存療法と外科療法に分かれます。
1 保存療法
体重が軽い小型犬で行うことがあります。安静、鎮痛剤、膝装具などを用いますが、外科治療に比べ不安定性が残ったり、半月板が二次的に損傷していると痛みがとれないため、跛行が続く事があります。
2 外科治療
大腿骨と脛骨を安定化するために様々な術式があります。当院では、関節外法または、TPLOという骨切り術を実施しております。また、二次的に半月板損傷が生じている場合、損傷した半月板の一部を摘出しないと跛行が続いてしまうことがあるので、必要に応じて損傷した半月板の一部摘出を行なっております。
靱帯の代わりになる糸(ファイバイーワイヤー)を用いて、膝関節の安定化を行います。
種子骨に糸を掛け、脛骨に穴を開けて糸を通し、しっかりと結紮することで、大腿骨と脛骨の安定化を計ります。青い糸が、固定に用いている糸になります(矢印)。
「実際に実施した症例です。糸はレントゲンに写りませんが、前方に変位(矢印)していた脛骨の位置が戻っています。
大腿骨に対して脛骨が前方に変位しない様に、脛骨を骨きり矯正を行います。関節外法では、体重のある中−大型犬において緩みが起こる危険性があるため、TPLOの実施をお勧めしております。最近では、小型犬用のTPLOプレートも取り扱われており、小型犬でも実施可能です。
脛骨を骨切りし、骨矯正を行い、プレートで骨片を固定しております。
脛骨が大腿骨に対して前方へ変位しないように骨矯正されています。
「中高齢で急に後肢の跛行や挙上が認められる」、「間歇的な後肢の跛行が認められる「前十字靱帯断裂と診断を受けた」などお困りの際は、当院に気兼ねなくご相談下さい。