口腔内腫瘍は、悪性腫瘍と良性腫瘍に分類されます。
悪性腫瘍のうち犬では悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、線維肉腫が多く、まれに骨肉腫、リンパ腫、肥満細胞腫など他の悪性腫瘍も認められます。また猫では、多くが扁平上皮癌、まれに線維肉腫など他の悪性腫瘍も認められます。
一方、良性腫瘍では、棘細胞性エナメル上皮腫、形質細胞腫、周辺性歯原性線維腫が認められます。棘細胞性エナメル上皮腫は良性腫瘍のため転移する事は無いですが、浸潤性が強く大きく周囲へ広がります。形質細胞腫も同様に浸潤性が強い場合があります。
その他、非腫瘍性疾患として、歯肉過形成(線維性エプリス)、歯肉過形成症が挙げられます。
口腔内に腫瘤(できもの)が認められた場合、それが悪性腫瘍なのか良性腫瘍なのか、非腫瘍性疾患なのか診断をするためには、腫瘤の一部を採取して顕微鏡で確認する組織検査が必要となります。
口腔内なので、通常は麻酔下で実施します。また悪性腫瘍が疑わしい場合、同時に麻酔下でCT検査を実施し、腫瘍による顎骨などの周囲組織への浸潤性や転移の有無も同時に評価します。
口腔内腫瘍に対する局所治療は、外科治療および放射線治療が挙げられます。
転移が認められず、拡大切除可能な部位では、外科治療を検討します。
一方、拡大切除が困難な部位や切除により採食が困難になりうる、高齢で外科治療を希望されない場合は、放射線治療を検討します。
放射線治療で効果が得られやすい腫瘍は、悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、棘細胞性エナメル上皮腫が挙げられます。放射線治療は大学病院や2次診療施設で実施可能なため、ご紹介させて頂いております。
また、悪性黒色腫(メラノーマ)といった転移を生じやすい腫瘍や、病理検査結果により、局所治療に加えて、術後補助化学療法(抗がん剤治療)を実施します。
実際に治療した症例
左側上顎に黒色の腫瘤(できもの)があるのに気づき、ホームドクターを受診され、口腔内腫瘍疑いとの事で当院へご紹介頂き受診されました。
左側上顎第3−4前臼歯レベルの歯肉に黒色の腫瘤が認められました。
当院にて、C T検査および組織生検、下顎リンパ節の細胞診を実施したところ、腫瘤による顎骨の骨溶解像や肺、リンパ節などの転移を疑う所見は認めず、組織検査では悪性黒色腫(メラノーマ)でした。
転移を疑う所見が無かったため、積極的治療として左側上顎部分切除を実施致しました。病理検査では悪性黒色腫でした。また病変は限局し、摘出状態良好であり、分裂像がほとんど見られませんでした。病理検査結果と高齢であることを踏まえオーナー様と相談し、術後抗がん剤治療はせずにホームドクターにて定期検診を行っており、良好な経過を過ごしております。
他院にて右側下顎腫瘤が認められ、当院へご紹介頂き来院されました。
右側下顎の犬歯領域に3cm大の硬い腫瘤が認められたため、当院にてC Tおよび組織検査を実施致しました。CT検査にて一部下顎骨の骨溶解が認められましたが、転移を疑う所見は認められませんでした。また、病理組織検査では、骨肉腫でした。
転移が認められなかったため、積極的治療として両側吻側下顎切除を実施し、術後の転移をできるだけ防ぐため、術後補助化学療法(抗がん剤治療)を実施致しました。3週おきに4回抗がん剤投与を行った後、ホームドクターにて定期検診を実施頂いておりますが、良好な経過を過ごしているとの事です。
半年前から右側下顎腫瘤が認められ、ホームドクターに受診したところ、細胞診にて扁平上皮癌が疑われた。セカンドオピニオンのため、当院へ受診されました。右下顎第3切歯外側にて1.5cm大の腫瘤が認められ、C Tおよび組織生検を実施致しました。C T検査にて、一部切歯骨における骨溶解を伴う腫瘤が認められましたが、明らかな転移を疑う所見は認められず、病理組織検査にて棘細胞性エナメル上皮腫でした。細胞診では扁平上皮癌が疑われていましたが、細胞診より組織検査の方が診断精度は高いため、今回の口腔内腫瘤は、棘細胞性エナメル上皮腫と考えられます。
棘細胞性エナメル上皮腫は、良性腫瘍のため転移を生じる事はありませんが、局所浸潤が強く増大するため、今回外科切除を実施致しました。完全切除であったため、一旦治療終了と致し、その後再発も無く良好な経過を過ごしております。
1週間前ホームドクターにて歯石除去を行なった際に、偶発的に左側上顎に黒色の腫瘤が認められ、ご紹介頂き当院へ受診されました。
左側上顎第4前臼歯レベルの歯肉に2cm大の黒色腫瘤が認められました。当院にてCT検査および組織生検、下顎リンパ節細胞診を実施したところ、C T画像上では骨溶解や転移所見は認められず、病理組織検査では、悪性黒色腫(メラノーマ)でした。画像上およびリンパ節の細胞診上では転移を疑う所見が無かったため、当院にて左側上顎部分切除および下顎リンパ節切除を実施致しました。病理組織検査では、完全切除でリンパ節転移無く、分裂像がほとんど認められませんでした。高齢で、病理検査にて分裂像がほとんど認められなかった事から、術後補助化学療法(転移をなるべく抑えるための抗がん剤治療)は実施せず、定期検診で経過を見ており現在術後1年半経ちますが再発や転移を疑う所見は無く、良好な経過を過ごしております。
「口にできものが認められる」「口臭がする」「口腔内腫瘍が認められると言われた」などでお困りの際は、当院に是非気兼ねなくご相談下さい。