肛門嚢にしこりがある(肛門嚢腺癌)

  • TOP » 
  • 治療実績 » 
  • 肛門嚢にしこりがある(肛門嚢腺癌)

肛門嚢腺癌

肛門嚢腺癌は、肛門左右にある肛門嚢という分泌物をためる袋から発生する、悪性腫瘍です。この腫瘍症例のうち、30-90%で高Ca血症が認められます。局所浸潤性は強く、肛門周囲の軟部組織や肛門括約筋に浸潤する事があります。また、遠隔転移率も高く転移率72%という報告もあり、局所リンパ節(腰下リンパ節郡)、肺などに転移する事が多い腫瘍です。

局所リンパ節(腰下リンパ節郡)への転移を伴う肛門嚢腺癌は、肺などの遠隔転移が無ければ、転移を生じたリンパ節を腫瘍と一緒に切除する事で、転移を伴わない肛門嚢腺癌の症例と同等の生存期間が見込まれます。そのため、リンパ節転移のみであれば、積極的な外科治療を検討します。
また転移率が高い腫瘍のため、術後に抗癌剤投与を検討します。

術後しばらく経ってから、定期検査にて局所リンパ節(腰下リンパ節郡)の転移が認められた場合、肺などの遠隔転移が無ければ、転移を生じたリンパ節を切除する事で生存期間が延長する可能性があるため、切除可能な場合は外科的切除を検討します。

排便困難が生じる程、切除不可能なリンパ節腫脹の場合、放射線治療実施も検討します。
また、肺転移を伴う、進行した肛門嚢腺癌に対しては、トセラニブという分子標的薬を使用する場合もあります。

上記の様な積極的治療を希望で無い場合、排便困難に対して便軟化剤の使用や、食欲低下に対して水分や栄養を与えるなど、QOLの維持を目的とした緩和治療を実施致します。

実際に治療した症例

症例1:ミニチュアダックス、10歳、去勢雄

右肛門嚢に2.3cm大の腫瘤が認められるとの事で来院。細胞診を実施したところ、肛門嚢アポクリン腺癌が第一に疑われました。レントゲンおよび腹部超音波検査、CT検査にて、仙骨リンパ節が2.5cm大に腫脹しており、リンパ節転移が強く疑われました。リンパ節転移を伴う肛門嚢腺癌は、転移を生じたリンパ節を腫瘍と一緒に切除する事で、転移を伴わない肛門嚢腺癌の症例と同等の生存期間が見込まれるため、右肛門嚢腫瘍および仙骨リンパ節切除を同時に実施致しました。

  • 治療 CT画像
    右側肛門嚢領域に腫瘤(矢頭)が認められる。
  • 治療 CT画像
    右仙骨リンパ節(※)が2.5cm大に腫脹し、リンパ節転移が強く疑われる。
  • 治療 切除前 術中写真
  • 治療 切除後 術中写真

仙骨リンパ節(※)の切除を電気メスや綿棒を用いて実施している。

  • 治療
  • 治療 術中写真

右肛門嚢腫瘤を周囲組織から剥離し、導管を吸収糸で結紮後、切除を行っている。

術後、カルボプラチンによる抗癌剤投与を4回実施し、その後、定期検診としました。 第312病日にて、腰下リンパ節腫脹および肺に結節病変が散在して認められ、リンパ節の細胞診を実施したところ転移が強く疑われました。 トセラニブという分子標的薬の投与により、転移病巣は維持病変で、現在治療を継続しております。

症例2:トイプードル、11歳、避妊雌

嘔吐の診察における身体検査にて、偶発的に右肛門嚢腫瘤(0.7cm大)が認められました。細胞診を実施したところ、肛門嚢アポクリン腺癌が第一に疑われました。画像検査にて転移を疑う所見は認められなかったため、右肛門嚢腫瘍切除を実施しました。

  • 治療 CT写真
    右肛門嚢に腫瘤(矢頭)が認められる。
  • 治療 CT写真
    右肛門嚢腫瘤(矢頭)を周囲組織から剥離し、導管を吸収糸で結紮後、切除を行っている。

術後、抗癌剤治療希望されず、定期検診のみ行っていたところ、第429病日に内腸骨下リンパ節の腫脹が認められ、細胞診により、リンパ節転移が認められました。肺転移が認められなかったため、右内腸骨リンパ節および右下腹リンパ節切除を実施いたしました。

  • 治療 CT写真
    右内腸骨リンパ節腫脹(※)が認められる。

術後、計6回の抗癌剤(カルボプラチン)による補助化学療法を実施し、再度定期検診といたしました。その後、転移を疑う所見は認められませんでしたが、第1215病日の定期検診にて、肺に複数微細な結節病変が認められ、トセラニブという分子標的薬の投薬を実施致しました。肺転移病巣は変化なく、維持病変を保っておりましたが、第1962病日に肺転移病巣の増大が認められたため、トセラニブ投薬を中止し、定期検診のみと致しました。現在腰下リンパ節の腫脹や排便困難は認められず、一般状態は良好で経過観察を行っております。

症例3:イングリシュ・コッカー・スパニエル、12歳、去勢雄

ホームドクターにて、右肛門嚢領域に3cm大の腫瘤が認められたため、当院へ紹介受診頂きました。肛門嚢腫瘤は、細胞診より肛門嚢腺癌が疑われ、C T検査にて右内側腸骨リンパ節(1.1cm)、右下腹リンパ節(1.3cm)、右仙骨リンパ節(0.7cm)は軽度に腫脹し、初期転移が疑われました。肺転移は認められ無かったため、右肛門嚢腫瘤切除および右内側腸骨リンパ節、右下腹リンパ節、右仙骨リンパ節切除を実施致しました。

  • 治療 CT写真
    右肛門嚢領域に腫瘤(矢頭)が認められる。
  • 治療 CT写真
    右仙骨リンパ節の腫脹が認められる。
  • 治療 術中写真
    仙骨リンパ節の切除を行っている。
  • 治療
  • 治療 術中写真
    右肛門嚢腫瘤を周囲組織から剥離し、導管を吸収糸で結紮後、切除を行っている。

病理検査にて、肛門嚢腫瘤は肛門嚢腺癌、右内側腸骨リンパ節、右下腹リンパ節、右仙骨リンパ節は転移所見が認められました。術後、計6回の抗癌剤(カルボプラチン)による補助化学療法を実施し、再度ホームドクターにおける定期検診といたしました。 その後は、ホームドクターにて治療を実施頂いて定期検診と致しました。術後は良好な経過を辿っております。

「肛門嚢に腫瘤(しこり)が認められる」
「肛門嚢腺癌と診断された」
などでお困りの際は、当院に気兼ねなくご相談下さい。

イメージ

047-409-3906
(祝日、日曜日午後休診)